D-SNS: Dynamic Social Network System

Social Networkの形成と活用に基づく組織横断型知識協創支援:

「高度情報化社会の到来」や「経済のグローバル化」が謳われて久しい.知識労働者は複雑かつ急激に変化する社会や周囲の環 境に合わせて新たな知識を生み出し問題を解決していく必要性に常に迫られています.伝統的なナレッジ・マネジメントの枠組みは,組織のあらゆる情報や知識 を「知識リポジトリ」に集約させ再利用を可能にすることで,複雑な変化に対して迅速に対応する手段を提供することが大きな目的でした.しかしながら,社会 学や文化人類学の研究により,すべての知識を「知識リポジトリ」に保存することは不可能であり,知識とはそれが利用される環境に埋め込まれていたり,周囲 の環境に分散したものとして存在する事が多いということが明らかにされつつあります[1][2][3][4].

Social Networkの活用:

知識集約型アプローチの限界を克服すべく,近年「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」や「ソーシャル・ネットワー ク」の活用に注目が集まっています[5][6].これらの枠組みでは,人と人との積極的な交流によって形成される「社会的なつながり」を通じて得られる情 報や知識に重点が置かれています.

知識集約型アプローチは,情報や知識をすべてのユーザが利用することができるという長所と,蓄積可能な情報・知識の限界と蓄積された情報・知識の陳腐化が避けられないという短所を持っています.一方,ソーシャル・ネットワーク型アプローチは,個々のユーザが有する(暗黙知を含めた)最新の知識を入手可能であるという長所があるものの,そうした知識を有するユーザとの直接的なやりとりがなければ入手不可能という短所があります[7].

The DynC (Dynamic Community) framework [8]:

Yunwenらは,上で述べた2つのアプローチを融合した枠組みであるDynC(Dynamic Community)フレームワークを提案しています.この枠組みは,知識リポジトリから,情報と情報の関係(従事するタスクに関連する情報の検索),人 と情報の関係(エキスパートの同定),人と人の関係(社会的つながりの利用)を抽出し活用することによって,従来の知識協創支援における問題点に対処しよ うとするものです.DynCの枠組みによって形成されるダイナミックコミュニティは,タスクに応じてその都度形成されるという「恣意性」と,同じタスクで あってもタスクをおこなう人それぞれの状況に応じて変化するという「相対性」を特徴としています(DynCに関する詳細は文献[8]を参照して下さい).

研究の目的:

本研究の目的は,DynC理論に基づく知識協創支援システムを構築することです.当研究グループでは,SourceForge等の大規模オンライン・コミュニティに所属するソフトウェア開発者を支援対象として,特に,

                   

  • 組織(プロジェクト)横断型の知識協創手法(理論・メカニズムの構築など)
  • ソーシャル・ネットワークの形成および活用方法(推薦アルゴリズムの開発など)
  • ソーシャル・ネットワークの管理方法(SNの評価・可視化手法の開発など)

                 

に重点を置いて研究に取り組んでいます.また,SourceForgeに属するようなインターネット・ユーザだけではなく,実際の企業や組織のイントラネット・ユーザへ開発手法を適用することも検討中です.

DSNS: A Dynamic Social Network System:

現在構築中のシステム DSNS (Dynamic Social Network System) は,Social Network 形成のダイナミクス(スモールワールド現象におけるスケール・フリー・ネットワーク[9])を考慮に入れたDynCフレームワークに基づく知識協創支援シ ステムです.SourceForgeに所属する開発者(Eclipseユーザ)が適切なタイミングで最適なダイナミックコミュニティを形成できるように,個々の開発者のソーシャル・ネットワークの質と量を計測し,ネットワークの形成と活用方法を動的にガイドします.

                   

システムアーキテクチャ
システムアーキテクチャ
システムモデル
システムモデル
SNメンバーリス
SNメンバーリスト
SNを利用したコミュニケーション
SNを利用したコミュニケーション

 

 

参考文献:

 

    • [1] M. Polanyi, Tacit Dimension, Doubleday & Co., 1966.
    • [2] J.S. Brown, A. Collins and P. Duguid, Situated Cognition and the Culture of Learning, Educational Researcher, Vol.18, No.1, pp. 32-42, 1989.
    • [3] J. Lave and E. Wenger, Situated Learning: Legitimate Periperal Participation, Cambridge University Press, 1991.
    • [4] D.A. Norman, Things That Make Us Smart: Defending Human Attributes in the Age of the Machine, 1993.
    • [5] M. Baker, Achieving Success Through Social Capital: Tapping Hidden Resources in Your Personal and Business Networks, 2000.
    • [6] D. Cohen and L. Prusak, In Good Company: How Social Capital Makes Organizations Work, 2001.
    • [7] A.A. Bush and A. Tiwana, Designing sticky knowledge networks, Communications of ACM, Volume 48, Issue 5, pp.66-71, 2005.
    • [8] Y. Yunwen, Y. Yamamoto, and K. Kishida, Dynamic Community: A New Conceptual Framework for Supporting Knowledge Collaboration in Software Development, Proceedings of 11th Asia-Pacific Software Engineering Conference (APSEC’04), pp.472-481, 2004.
    • [9] A. Barabasi, Linked: The New Science of Networks, 2002.