近年,システム開発の低価格化・短納期化に対応するために,Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアを活用したシステム開発が一般的になりつつあります.しかし一方で,OSSはボランティアの開発者によって開発が進められているため,「利用しているOSS がいつまで存続するか分からない」という理由からOSSを活用したシステム開発を躊躇するベンダー企業も少なくありません.
そのような懸念を払拭するために,OSS開発の進化に関する研究が盛んに行われています.先行研究の多くは,OSS システムあるいはコミュニティがどのように発展(あるいは衰退)するのかを理解することで,OSSを利用したソフトウェア開発の信頼性に関して有用な知見を導くことを目的としています.
ただし,OSSシステムあるいはコミュニティを別々の系統として捉え,それぞれの系統を個別に分析したものがほとんどです.一方,Yeらは,OSSシステムとコミュニティはともに相互作用しながら進化するものと捉え,共進化のモデルを提案していますが,Yeらの研究では具体的なコミュニティを対象に定量的に共進化のプロセスを分析していません.
アプローチ
本研究は,YeらのモデルをベースとしてOSSシステムとコミュニティの共進化のプロセスを定量的に示すことを目指しています.多くのOSSプロジェクトに共通する一般的な知見だけではなく,個々のコミュニティに特有の知見も導出することができれば,OSS開発に関する懸念の払拭につながると考えており,OSSシステムとコミュニティの共進化を定量的に分析するためのデータマイニング手法を開発します.本手法は,時間的順序関係を考慮した相関分析を行うためのものであり,一方の系統の進化が一定時間後に他方の系統の進化に影響を与えるという関係の抽出を支援します.
主な論文
山谷 陽亮, 大平 雅雄, Passakorn Phannachitta, 伊原 彰紀, “OSSシステムとコミュニティの共進化の理解を目的としたデータマイニング手法,” 情報処理学会論文誌, volume 56, number 1, pages 59–71, 2015年1月.
Yosuke Yamatani and Masao Ohira, “An Exploratory Analysis for Studying Software Evolution: Time-Delayed Correlation Analysis,” In Proceedings of 6th International Workshop on Empirical Software Engineering in Practice (IWESEP 2014), pages 13–18, November 2014.