一般的なOpen Source Software (OSS) は,地理的に分散した不特定多数の開発者がWWW上に形成したOSSコミュニティにおい て開発が行われている.現在,LinuxやApacheを代表とする一部のOSSは,商用ソフトウェアに劣らない品質と機能を兼ね備え ているため広く普及しており,情報化社会における社会基盤を支えているといっても過言ではない.中国やインドにおいてオ フショア開発が盛んに行われるようになったことを背景に,分散開発の成功事例であるOSS開発を分析する研究が盛んに行わ れている.それらの研究の目的は,OSS開発の実態を分析することによって分散開発を成功に導くための要因を明らかにする ことである. 我々はこれまで,3つのOSSコミュニティ(Apache,Gimp,Netscape)を対象として,OSSコミュニティ内の開発者とユーザの 間に形成されたコミュニケーション構造を分析した.分析の結果,OSSコミュニティが活発に活動するためには,開発者とユ ーザの間の橋渡し役を務め協調作業を支えるコーディネータの存在が重要であることが分かった.本稿では,開発者とユーザ に加え,信頼性の高いソフトウェアの実現に重要な役割を果たすと考えられるバグ報告者らの協調作業を分析した結果につい て報告する. 本稿では,信頼性の高いリレーショナルデータベース管理システムを開発しているPostgreSQLコミュニティにおける3つの参 加者グループ(開発者,ユーザ,バグ報告者)に着目し,コミュニティ成立初期からのコミュニティの成長の様子を,コミュ ニティ参加人数およびコーディネータ数の時間的推移という観点から分析した.3つのグループの協調作業の円滑化に寄与す るコーディネータの存在を確認するとともに,4種類のコーディネータが存在することが分かった. 次に,4種類のコーディネータがどのような特徴を有しているかを調べるために,PostgreSQLコミュニティのある1年間を対 象として,参加者のコミュニケーション構造をソーシャルネットワーク分析の一手法である中心性分析を用いて分析した.本 稿における中心性分析とは,各参加者の情報を発信/受信する量(次数中心性),参加者間の情報伝達における仲介度合い( 媒介中心性),コミュニティ全体に対する情報提供/入手のしやすさ(近接中心性)という3つの指標に基づいて,参加者のコ ミュニケーション構造を分析することを指す.分析の結果,4種類のコーディネータの内,開発者とバグ報告者を仲介するコ ーディネータ,および,ユーザとバグ報告者を仲介するコーディネータは,他の2種類のコーディネータと比べてバグ報告者 とのコミュニケーション量が少ないということが分かった.また,特定の数人のコーディネータは,開発者,ユーザ,バグ報 告者の3つのグループの協調作業における仲介に関与し,常に高い中心性を示すことがわかった.分析によって得られたこれ らの知見に基づいて,ソフトウェアの分散開発の成功要因について考察する.