■研究の背景■ ApacheやLinuxをはじめとするオープンソースソフトウェア(OSS)は,社会基盤として 広く普及しているため高い品質が求められている.しかしながら,OSSの開発は一般的 に,開発者が地理的に分散した環境でメールなどの非同期非対面コミュニケーションメ ディアを用いた協調作業となるため,開発中に生じた個々の不具合(バグ)の修正方針 や修正状況を開発者間で共有することが難しい.さらに近年,OSSの大規模化や複雑化 に伴う不具合の増加が,不具合情報の共有と管理をますます困難なものにしている.多 くのOSS開発では,不具合情報を一元管理するためにバグ管理システムを導入し利用し ているが,不具合が報告されてから修正が完了するまでの時間(本稿では滞留時間と呼 ぶ)が極めて長いものが数多く存在するという問題が指摘されている.例えば,Linux カーネルにおける不具合の残存期間は平均1.8年間(中央値1.25年間)であり,報告さ れたすべての不具合が修正されるまでには非常に長い時間を要している. ■研究の目的■ 本研究の目的は,不具合を効率的に修正するための作業支援システムを構築することで ある.その第一歩として本稿では,支援システム構築のための要件を明らかにするため に,滞留時間を長期化させる要因の分析を行う. ■着眼点■ バグ管理システムに関する先行研究から,バグ管理システムに報告された不具合には, アサインされない(修正担当者が割り当てられていない)状態のまま放置されているも のが数多く存在することが分かっている.つまり,不具合が報告されてからアサインさ れるまでの時間(本稿では未対応時間と呼ぶ)が長いことが,滞留時間を長期化させる 要因の一つになり得る.本稿では,滞留時間を未対応時間と修正時間(本稿ではアサイ ンされてから修正が完了するまでの時間を指す)の2つに分割する.滞留時間を未対応 時間と修正時間に分割することで,滞留時間を長期化させる次の3つのケースを考える ことができる.(i)未対応時間のみが長い,(ii)修正時間のみが長い,(iii)未対応時間 と修正時間が長い. ■分析結果■ これら3つのケースのうち,不具合の長期化に大きく影響を与えているものを特定する ために,修正が完了するまでのプロセスが詳細に記録されているMozilla Firefox Pro jectが管理する不具合を対象に分析を行った.分析の結果,長い滞留時間を要する不具 合には,ケース(i)と(ii)の2つのケースが存在することが分かった.分析から得られた 知見に基づいて,滞留時間が長期化する要因について考察し,不具合修正のための作業 支援システムに必要な機能を提案する.